LEVOLANT (March 1994)
story by: T.Yoshida
Photo by: N.Nakagawa
素敵なイタリアン!
ALFA33 スッドの面影が懐かしいフラット4独特の回転感
 
自動車好きならば、他人と違うクルマに乗りたいと思うことがある。それも、時たま乗るだけのスポーツカーなど ではなく、普段の脚に使うためにそういったちょっと珍しいクルマを選ぶのが、エンスーっぽくていい。 ラテン系のクルマで、日本に正規輸入されていないモデル、なんていうのがそういった用途には面白いチョイス だが、実はそんなクルマが実際に売られていた。かつてアルファ・ロメオの正規ディーラーをやっていた神戸の 明植自動車がドイツ経由で輸入しているアルファ33とアルファ75である。 アルファ33はいうまでもなく、あのアルファスッドの後継モデルとして83年に発表された全長4m強の4ドア セダンで、スッド譲りの水冷水平対向SOHC4気筒ユニットをフロントに縦置きして前輪駆動する、というのが その基本モデルだ。後にパートタイム4WDの4X4も追加され、さらに現在では、上級モデルの4WDシステムは ビスカスのセンターデフを持つフルタイム式Q4に進化している。 水冷フラット4には1.35Pからあるが、明植自動車で輸入しているのはガソリンで最大の1.7P版で、SOCHの 1.7IEと、DOHC16バルブの16Vの2種類だ。1712ccの排気量から生み出されるパワーとトルクは、IEが107ps/ 5800rpmと15.1kg-m/4500rpm、16Vが132ps/6500rpmと15.7kg-m/4700rpmとなっている。 ギアボックスはいずれも5段MTで、当然予想されるとおりオートマチック仕様の設定はない。 アルファ33には、4ドアセダンのほかにスポーツワゴンと呼ばれるワゴン・ボディーが用意されているが、 明植自動車はセダンに加えて、最近はこのスポーツワゴンも輸入している。したがって現在輸入されている アルファ33系のラインナップは、セダンの16Vと16V・Q4、スポーツワゴンの1.7IEと16V・Q4の合計4車種 になる。 明植自動車による車両本体価格は、それぞれ順に330万円、357万円、290万円、352万円で、オプションの クーラーを装備するとそれに28万円がプラスされることになる。 まずはセダンの16Vのコクピットに落ち着く。デビューからすでに10年も経ったクルマだが、途中でモダンナイズ されたダッシュボードのデザインなどは決して古さを感じさせず、却って最近のクルマよりシンプルなのが好ましい ほどだ。しかしその一方で、ペダル類が中央寄りにオフセットしているところなどにスッドの面影があって、 最近のFFとの違いを感じるが、居住空間は現在の標準からみても十分で、4人の大人が楽に座れる。 もしも貴方がアルファスッドを運転した経験のある人物ならば、走り出した途端に、あのスッドの感触を思い出す はずだ。16バルブの1.7Pフラット4は、当時のスッドより遥かにパワフルだが、それでもブチブチという独特の サウンドを発しながら回る低回転ではやっぱりトルクが細い印象。6700rpmから始まるレッドゾーンに向けて 回せば回すほど活気づき、結果としてついつい目一杯に引っ張る運転になってしまうところなど、まったくスッド とそっくりなのだ。例えば高速道路におけるメーターの100km/hは5速で3000rpmだが、そこからは必要あって 追い越し加速をかける場合など、最近の中速トルク豊かなクルマと違って5速のまま踏み込もうという気が起きず、 どうしても4速、もしくは3速までシフトダウンしたくなってしまう。そうやってこまめにシフトしながら高回転 まで引っ張ってやれば、メーターの160km/hあたりには簡単に達するから、パフォーマンスにも不足はない。 シフトはストロークがやや大きく、タッチも新車のためか少し渋かったが、これは走り込めば改善されよう。 5.5Jのスピードライン・ホイールに185/60R14のミシュランMXV2を履いた脚は、これも新車ゆえのダンパーの 渋さもあってやや硬めだったが、低速でも決して荒っぽくなく、しかもスピードを上げるにつれてフラットかつ 快適になっていく。これもまたスッドと同じ傾向であった。 今回のテストルートはにはワインディングロードがなかったため、ハンドリングについては断定できないが、 少なくとも高速コーナーでの挙動は安定したものだった。パワーアシストを備えるステアリングは常に適度な 重さを保って素早く反応し、スポーティーな感触を持つものだったのが好ましい。
 
続いて、セダンよりむしろスタイリッシュなボディーを持つ、スポーツワゴンのQ4に乗り換える。 なぜかステアリングホイールは別物だったが、ダッシュやシートがセダン16Vと共通のコクピットは、ワゴンとして はかなりスポーツライクなものだ。走り出すと、16バルブ・エンジンのキャラクターはセダンと変わりないが、 特に低回転での反応がセダン16Vよりやや重いのが分かる。これは明らかに車重の違いによるものだ。 こいつの車重は、ワゴンボディーで15kg、4WDメカニズムで70kg重くなって、セダン16Vの1000kgに対して 1085kgあるのだ。したがってパフォーマンスも、低速での瞬発力がセダン16Vにやや劣るが、高速になると その違いはさほど顕著ではなくなってくる。 その一方で、この重さは乗り心地には好ましい結果を与え、タイヤが同サイズのピレリーP4000に変わることも 影響してか、低速でもセダン16Vよりややソフトに感じられた。 フルタイム4WDによる操縦性には、これも決定的な判断は下せないが、高速での落ち着きがFFの16Vより一段と 高く感じられたのは事実だ。ただしこの4X4仕様のスポーツワゴンQ4には、見逃せない弱点がある。 4WDメカニズムを収めるためにリアのフロアがFFモデルより目に見えて高くなり、せっかくのラゲッジスペースが 上下に圧縮されているのだ。だから、スポーツワゴンのメリットを存分に生かしたいのなら、FFのIE仕様を選ぶほう が賢明だろう。今回はステアリングを握る時間がなかったSOHCでFFの1.7IEスポーツワゴンは、重量が985kgと 軽く、しかもプライスもQ4のワゴンより62万円も安いのである。
 
ALFA 75ツインカムが心地好い最後の後輪駆動セダン
前輪駆動の155にその座を譲ったことによって、アルファ・ロメオを最後の後輪駆動セダンとなってしまった アルファ75は、お世辞にも美しいとはいえないが極めて個性的な箱形ボディーの魅力もあって、今もエンスーに かなり人気の高いクルマである。 日本にもかつて2P4気筒のツインスパークと2.5PV6がディーラー車として輸入されていたが、それがいずれも 155と164に取って代わられるかたちでアルファ・ロメオの正規輸入リストから落とされた後も、程度のいい ユーズドカーは引っ張り凧の状態が続いているという。 実は明植自動車の植田社長は、ガレージに60年代のジュリエッタ/ジュリア系を数台、所有するほか、「勝負ゆう ときにはコレでいくんですわ」という、 チューンした3PV6の75を持っているほどのアルフィスタだから、 それならば新車を提供しようと、これもドイツ経由でアルファ75を輸入したわけだ。 ただしそれはツインスパークではなく、ノーマルヘッドのDOHC4気筒を持つ1.8IEである。 アルファ・ロメオが常にそうであるように、このクルマもまた最大の魅力はそのエンジンにある。1779ccから 120ps/5800rpmを発生する8バルブのアルファ・ツインカムは、レブリミットも5600rpmからイエロー、 6400rpmからレッドゾーンという具合に低く、レスポンスも最近の日本のDOHC16バルブほどシャープではないが、 ドライバーの右足に素直に反応するのが実に心地好い。 5段MTを介して1110kgのボディーを走らせるパフォーマンスは、メーカー公表値で0〜100km/h加速11秒0、 最高速190km/hというもので、現代の1.8Pスポーツセダンとしてはさほど速い部類ではない。 しかし、その回転感は例によってスポーティーなもので、特に4000rpmを超えるあたりで咆哮の音質が変化して からの吹け上がりかたは、まさしくアルファ独特の快感に満ちている。 しかもこのエンジン、もともとさほど静かではないが、その反面、回してもとくに騒々しくならないのが好ましい。 いうまでもなくアルファ75は、アルフェッタ譲りのトランス・アクスル方式を採っている。そのためギアシフトは リアのギアボックスから長いリンケージで引っ張っているが、75の場合は、シフトは昔のアルフェッタなどより 遥かにしっかりしていて、ドライビングのリズムを崩さないのもいい。 フロントがダブル・ウィッシュボーン、リアがド・ディオンというサスペンションに、185/70R13のミシュラン MXVを履いた1.8IEの脚は、パワーと重量に対してちょうどいいバランスを持っているように思えた。 乗り心地の硬さも適度で、このクルマの場合もワインディングロードを攻めるチャンスはなかったが、ハンドリング の印象も自然なものだった。 というわけで、アルファ75の1.7IEは、決して目が醒めるように速いクルマではないし、飛び抜けて快適なクルマ でもない。しかし、ドライバーの意思に素直に反応するアルファ・ツインカムの古典的な回転感と、それを支える バランスのいいシャシーの組み合わせによるような、まろやかなスポーツ・フィールに溢れている。 しかもそれでいて、33の場合と同じく、室内は充分に広く、スクエアなトランクルームも使える。 つまりこれは、今でも日常の脚として充分に役に立つエンスーグルマなのである。ちなみに75の1.8IEは、車両本体 価格が295万円で、クーラーが25万円、サンルーフが10万円のオプションになる。 アルファ33もアルファ75も、いずれもデビューから10年前後が経ったクルマで、かたやすでに生産中止されて しまったモデルだから、そのスタイリングも走行フィールにも、いささか古臭い感じがつきまとうのは否めない 事実だ。けれども、新しいクルマが常にその先代より魅力的とは限らないのもまた事実で、アルファ33や75の 適度な古臭さが、クルマ好きにとっては却って新鮮な魅力に感じられたりもする。 しかもそういったユニークなクルマが中古ではなく新車で手に入る、という点が、こういうある種ゲリラ的な 少数並行輸入業車の魅力ではなかろうかと思う。
 
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